労働条件の「言った、言わない」を防ぐ! 雇用契約を結ぶ際のポイント

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アルバイトスタッフを採用する際の「雇用契約」について、どのような手続きを踏むべきかご存じでしょうか。この段階でのスタッフとの認識のズレは、後になって予想しないトラブルの種になる可能性も……。「言った/言わない」の水掛け論を防ぐためにも、労働条件を明確にする「雇用契約書」の取り交わしが欠かせません。雇用契約を結ぶ際のポイントを、求人や雇用の法律に詳しい行政書士の小山内先生に解説していただきました。

なぜ雇用契約書を取り交わすべき?

雇用契約を規制する法律はいくつかありますが、アルバイトに関するものには労働基準法、パートタイム労働法が挙げられます。これらの法律では、アルバイトスタッフに対して、一定の労働条件(契約内容)を示す書面の交付を雇用主に義務づけています。一般的に「労働条件通知書」と呼ばれるものです。

ただ、この2つの法律は書面の「交付」を定めたもので、契約書の取り交わしを義務にはしていません。しかし、それでもなお、雇用契約書を取り交わすべきなのです。それは「証拠を残す」ため。では、いったいどんな証拠が必要なのでしょうか? ポイントは以下の5つです。

雇用契約書で確保すべき証拠

  1. 労働条件・契約内容そのもの
  2. 労働条件を書面で通知したこと
  3. 労働者が労働条件・契約内容の明示・説明を受けたこと
  4. 労働者が労働条件・契約内容を理解したこと
  5. 労働者が労働条件・契約内容に合意したこと

雇用契約書はトラブルの際に、企業側を守る証拠を確保してくれます

雇用契約書はトラブルの際に、企業側を守る証拠を確保してくれます

①は、契約において最も重要な労働条件・契約内容に関するもの。雇用主とアルバイトスタッフが「言った/言わない」「聞いた/聞いていない」という水掛け論に陥らないためには、この記述が欠かせません。

②以下は、冒頭で触れた労働基準法とパートタイム労働法の規制を満たすものです。労働条件通知書を交付することでもクリアできますが、それだけでは交付したという証拠が残りません。労働条件通知書をただ交付しただけの場合、アルバイトスタッフから「書面はもらったが説明は受けていない」「書面の説明は受けたが、内容は良くわからなかった」「書面の内容は理解したが、合意するとは言っていない」などと主張される可能性があります。雇う側は内容を「通知」の上で「説明」し、アルバイトに「理解」してもらい、なおかつ「合意」してもらわなければなりません。

ちなみに、労働条件通知書を交付した「証拠」がなければ、労働基準法第15条第1項違反、パートタイム労働法第6条第1項違反になる可能性があります。前者はれっきとした犯罪(30万円以下の罰金。同法第124条第1項)で、後者も犯罪ではないものの10万円以下の過料が科せられます(同法第47条)。

最近は、これらの法令違反を理由に、労働者や労働組合などが企業を刑事告訴・刑事告発する事例が散見されます。労働者と企業とのトラブルでは、裁判所は立場が弱い労働者側を保護しがちです。もしもの時に備えて、前出の労働基準法とパートタイム労働法の遵守、つまり雇用契約書を取り交わしておくことに越したことはありません。

雇用契約書の記載で覚えておくべきポイント

では、雇用契約書に書いておくべき内容を見ていきましょう。パートタイム労働法第6条第1項では、次の労働条件を労働者に対して明示する必要があります。

労働者に文書で通知するべき事項 (パートタイム労働法施行規則第2条第1項)

一  昇給の有無
二  退職手当の有無
三  賞与の有無
四  短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口※
※相談担当の氏名、役職、部署など

このなかでも留意すべきなのが、2015年4月から追加された第4号です。相談窓口に詳しい規定はありませんが、アルバイトスタッフが働く店の店長、直属の上司などではなく、本社人事部などが想定されます。しっかり検討しておいてください。

事業内容などによって、雇用契約書に記載すべき内容は変わります

事業内容などによって、雇用契約書に記載すべき内容は変わります

上記で紹介した4つの項目以外にも、服務規程などの事業内容やスタッフの労働状況に応じて別途記載するべき内容が出てくるでしょう。例えば、情報漏えいの対策です。労働契約の期間中はアルバイトにも秘密保持の義務が課されますが、一般的にアルバイトスタッフがその義務を知っているとは考えにくい。注意喚起のためにも、秘密保持義務を記載するべきでしょうね。これは、会社のノウハウや顧客情報を守るためにも重要です。

職場によっては、いわゆる「バイトテロ対策」として、携帯電話の取扱い、SNSの利用規制を明言しておくべきところもあるでしょう。職種や業種によって、押さえておくべきところを精査してみてください。

繰り返しになりますが、書面を取り交わす際は、「雇用契約書で確保すべき証拠」で挙げた「通知」「明示・説明」「理解」「合意」があったかがポイントです。「完全な合意」つまり、アルバイトが「労働条件・契約内容について、しっかり説明を受け、内容を理解し、合意をした」ということを証明できるようにしてください。「強制的に雇用契約書にサインさせられた」と言われるような状況に陥ってはいけません。

雇用契約を結ぶ際に最も良い流れは、事前に雇用契約書を配布し、なるべく対面で説明し、スタッフの内容の理解度や質問の有無をきめ細かく確認することです。なおかつ、その場ですぐに契約を交わさず、2週間程度経ってからサインをしてもらうようにしてください。クーリングオフと同じく、アルバイトに契約や労働について考える猶予期間を与えるのです。万一の訴訟リスクを考え、その際のやり取りを録音してもいいでしょう。

アルバイトスタッフをはじめ、労働者は労働条件に関して説明を受ける権利があります。そこで雇用主と認識の不一致や齟齬があれば、後々トラブルを招くことにもなりかねません。新しくスタッフを迎えるその日から、正しく雇用契約書を取り交わし、リスク低減につなげることが大切です。

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小山内行政書士事務所代表 小山内 怜治

小山内 怜治 / Reiji Osanai
小山内行政書士事務所代表
契約書作成業務を専門とし、契約実務を主軸とした、ビジネスモデルの明確化、業務プロセスの効率化、リスク対策等の企業向けコンサルティングを行っている。著書に『改正労働者派遣法とこれからの雇用がわかる本』『実務入門 これだけは知っておきたい契約書の基本知識とつくり方』がある。

小山内行政書士事務所
http://www.office-osanai.com/

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