長く働いてくれるのは誰?~「長期勤務」の分析~

  • 市場動向
採用活動にはそれなりの時間が必要だ。採用後の人材育成もまた然り、である。
現場で経験をつむほどに、スキルや知識が身に付いた、望ましい戦力が育つ可能性も高いといえるだろう。
また、頻繁に採用を繰り返す場合と、長期勤務可能なスタッフが控えている場合では、シフトの設計など人員計画も異なってくる。このような理由から長期間勤務できる人材を求めたい場面もあるだろう。
では、長期勤務が可能な人材にどうアプローチしていけばいいのだろうか。
また、実際に長く働いている人たちに共通項はあるのだろうか。
今回は、長期勤務を希望する人たちと、それを実践している人たちの意識を追ってみたい。
*)PDF版ではさらにデータの深い解説、
職種別の詳細な「辞めた理由」のデータ紹介などにも触れています。
出力しやすいA4サイズですので、ぜひご活用ください。

今月のポイント

  • 長期勤務の希望者の割合は、主婦とフリーター女性に多い。
  • 長期勤務の魅力は、安定した収入と経験・スキルが身に付くという点。
  • 時間の融通や職場環境、人間関係に配慮することが、離職防止につながる。

調査概要

■調査方法:インターネットアンケート
■調査対象:北海道・首都圏・東海・関西・九州在住15~34歳男女
現在、「高校生、短大・専門学校生、大学生、大学院生、アルバイト・パート、派遣社員、契約社員、無職の人」且つ「過去1年以内にアルバイト・パート、派遣社員、契約社員の仕事に就いたことがある人」
■調査期間: 2008年3月
■サンプル数: 8,538名
■ウェイトバック:対象者サンプル数が実際の人口の構成比と異なるため、総務省統計局の「平成14年就業構造基本統計調査」による非正規雇用就業人口に基づき、「属性・性別」ごとにウェイトをかけた。

1 誰が「長期勤務」を希望しているのか?

~安定を望む立場の主婦、安定から先を目指すフリーター女性~

長く働いてくれる人とは、一体どんな人材なのか――。それを探るために、長期勤務を希望する層を多角的に掘り下げみたい。それを進めるにあたり、今回、ひとつの基準として半年以上の勤務を「長期勤務」とすることにした。
ではまず、どんな人たちが長期勤務を希望しているのだろうか。そこで、属性別に希望する就業期間を調べた(図1-1)ところ、半年未満を希望する層が半年以上よりも割合として多かった属性のうち、大学・大学院生はその差が18%ともっとも大きくかった。高校生や短大・専門学生もわずかだが、半年未満の希望が多い。対して、半年以上の勤務を望む割合の方が多かったのはフリーター女性と主婦で、ともに10%以上も上回るという結果となった。

図1-1. 今後の希望契約期間

では、なぜ長期勤務を希望するのだろうか。そこで、半年未満、もしくは半年以上の勤務を希望する理由を見てみると(図1-2)、そのグラフの形の違いから、両者の理由に大きな違いがあることがよくわかる。まず、半年未満を希望する層でもっとも多かった理由は、「いろいろな種類の仕事を経験できるので」の28%(複数回答・この調査結果に関して以下同様)。次いで「嫌なことがあってもすぐ職場を変えられるので」(27%)、「好きなときに好きなだけ働ける仕事が多いので」(25%)、「すぐにお金が手に入るので」(20%)と続く。
一方、半年以上の勤務を望む理由としては、トップとなったのが「安定した収入を得られるので」の32%。以下、「仕事を通じて経験やスキルが身につくので」(27%)、「仕事を通じて人間関係や人脈が築けるので」(21%)、「いろいろな種類の仕事を経験できるので」(20%)などが上位の理由となった。

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2 実際に「長期勤務」している人たちとは……

~長期勤務は、大学生を除けば、総じて希望どおり~

次に、実際に長期勤務をしている人たちの属性を探ってみたい。
属性別に就業期間を調べた結果によると(図2-1)、まず半年未満の方が割合として多かったのは、高校生、短大・専門学生、大学・大学院生、フリーター男性。中でも、大学・大学院生は33%と23%と、10%も半年未満が多かった。対して、半年以上の方が多かったのはフリーター女性と主婦。とくに主婦は、20%から33%と、13%もアップしている。
さらにこの結果を、先の〈1〉で取り上げた、希望する就業期間を属性別に比較した円グラフと比べてみるとどうだろう。
希望期間が半年未満と実際の就業期間が半年未満だった場合については、希望では全体の半数近い46%を占めた大学・大学院生も、実際では33%に落ち込む。主婦とフリーター女性は逆に増え、とくにフリーター女性は9%も割合を押し上げた。半年以上の勤務では、希望よりも実際の方が増えたのが主婦、減ったのが大学・大学院生。ただ、それでも半年未満ほどの大きな変化はなく、その意味で、半年以上の勤務の方が希望と現実に各属性でズレが少ない、と言えそうだ。

図2-1. 属性別の就業期間

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3 長期勤務者の、その続ける理由

~希望した理由では、そのとおり続かない…!?~

では、実際に長期勤務を実践している人たちの理由は何なのだろうか。また、それは長期勤務を希望する人たちの理由と同じなのだろうか。
直近の就業について継続期間が半年未満だった人と半年以上だった人の、それぞれの継続理由を調べてみると(図3-1)、半年未満でもっとも多かった理由は「時間の融通がきくから」の14%。さらに「勤務地が自宅から近いから」(13%)、「給与が高いから」(11%)。「仕事内容に興味が持てるから」(9%)と続く。半年以上勤務した人の理由も1位は「時間の融通がきくから」で20%。2位以下には「勤務地が自宅から近いから」(15%)、「店長や社員の人の雰囲気が良いから」(8%)、「給与が高いから」(8%)という理由が並んだ。
ここで気付くのは、両者の理由が良く似ているということ。それはグラフにすると一目瞭然で、少数の理由でも、ほぼ同様の割合を示していることがよくわかる。

図3-1. 継続する最も大きな理由

次に、この継続理由を職種別(サンプル数の多かった6職種)に分類してみると、面白いことに気付く(図3-2)。それは、6職種すべての1位もしくは2位の理由に「時間の融通がきくから」が入ったという点だ。また、講師・インストラクターを除く5職種では、1位もしくは2位に「勤務地が近いから」も入っている。この2点は、長期勤務を支える、重要なポイントとなっているようだ。

図3-2. 半年以上勤務者の職種別継続最大理由TOP5

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4 長期勤務者の、それでも辞めた理由

~職場環境や待遇の悪化が引き金に~

最後のアプローチとして、長期勤務したものの、それでも辞めた理由を調べてみることにする。まずは、直近の就業について継続期間が半年未満だった人と半年以上だった人の、それぞれの辞めた理由だが(図4-1)、両者に違いがいくつか見られた。
辞めた理由でもっとも多かったのは、ともに「店長や社員の雰囲気が悪いから」だが、半年未満では33%、半年以上では27%とポイントに差があることがわかる。こういった職場環境、人間関係の悪化は、半年未満のより早い退職を引き起こすということだろう。
同様に半年未満の方が多い理由としては「仕事内容に興味が持てない・興味を失ったから」「自分にはできない仕事だから」「求人原稿に記載されてあったことと実際の仕事内容が異なるから」など、仕事内容に関することが目立つ。
逆に、半年以上の人に多かった理由としては「給与が低いから」「もっと良い条件の仕事が見つかったから」「能力に合わせて昇給、昇格ができないから」など。待遇や職場での評価といった点が退職の引き金になっているようだ。

図4-1. やめた理由(MA)

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今月のまとめ

  • 長期勤務(半年以上)を希望するその意識は、主婦とフリーター女性により強いことがわかった。つまりは、主婦やフリーター女性を採用のターゲットにすることで、長期勤務を期待できる人材の確保がしやすいのかもしれない。
  • 長期勤務している人と、勤務が半年未満の人について構成を比較すると、やはり主婦に長期勤務者が多い。逆に大学・大学院生は少なくなる。この点からも主婦層は、長期勤務の人材として注目できる。
  • 一方、大学生を中心とした学生の長期採用は難しいかと言えば、決してそうとも言い切れない。学生は総数も多いだけに、長期勤務を望む理由の上位である「安定した収入」「経験やスキルが身につく」といった点を丁寧にアピールすることで、期待する採用も十分望めるだろう。
  • 長期勤務を期待して採用したからには、早期で辞めないよう、日頃からケアしたいところ。半年以上勤務した人の継続理由として多かった「時間の融通がきく」や「店長や社員の人の雰囲気が良いから」は、離職対策として有効と考えたい。

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