就業前の「仕事&職場イメージ」と現実とのギャップを埋める – ARKコンサルティング・オフィス 代表 石川和夫

  • お役立ちインタビュー

 

 

従業員のアルバイト・パート比率の高い業界では、採用後の定着率を高めることが経営の重要課題になっています。「やっと採用したのに、うちのアルバイトはすぐに辞めてしまう」という採用担当者の悩みもよく聞きます。今回は、採用面接時に「辞めない人材」をどう見極めればいいのか、人材育成コンサルティングや研修等を行う石川和夫先生に、面接での具体的な質問術を交えて解説していただきました。

~勤務1ヶ月で5割が辞めたいと思っている~

『アルバイトレポート』が2010年5月に実施した新人アルバイトに対するアンケート調査を見ると、「現在のアルバイトを辞めたいと思ったことがありますか?」という質問に対して、全体の34%の人が「ある」と答えています。

また、そのように感じた時期を質問すると(仕事を始めてから)「1週間未満」が21%、「1週間以上1ヶ月未満」が33%、「1ヶ月以上」が43%という回答になっており、実際に辞めるかどうかは別として、勤務開始1ヶ月未満で5割以上の人が辞めたいと感じています。

さらに、辞めたいと思った理由を質問すると「上司や店長・リーダーと合わない」「給与が低い」「仕事が楽ではない・疲れる」「長い時期働ける仕事ではない」「上司や店長・リーダーが面倒を見てくれない」などの項目が上位に並びます。

~辞めたくなる理由は、最初のイメージと違ったから~

では、なぜ勤務開始から日数が経過するごとに、このような理由で退職したいと考える人が増えてくるのでしょうか。それは、勤務する回数が増えるごとに職場が抱えている問題や仕事の難しさ・大変さなどを知る機会が増え、事前に持っていた職場環境や仕事に対するイメージと『現実とのギャップ』を強く感じるからです。

上記の回答で見ると、「上司や店長・リーダーと合わない」ということは、価値観や考えの異なる人が職場には多数存在するということを想定していなかったのかもしれません。また、勤務前に時給や給与の金額はわかっているのですから「給与が低い」というのはおかしな話です。ここで「給与が低い」と回答している人は、思っていたよりも仕事が大変で、その割には給与が高くないと感じているのでしょう。さらに、「仕事が楽ではない、疲れる」と回答している人は、もともと働いてお金を得ることに対しての認識が甘いか、アルバイト経験がないため、お客としての経験からしか仕事を想像することができないのかもしれません。

一般的に、応募者は求人広告のキャッチコピーや写真などから受けた印象や、お客として利用した経験から仕事内容や職場環境に対するイメージを自分なりに作っています。そのため、そのイメージが崩れると次第に勤務意欲が減退し、辞めたいと感じることが増えてくるのです。

そこで、アルバイト経験があまりない応募者の場合は、面接時にこちらから次の会話例のような質問をして、できるだけそのギャップを把握すると同時に埋めておくことが必要です。

アルバイト経験の少ない応募者への面接例

面接者
「トレーニング期間中の時給は通常と異なるのですが、それは把握しておられますか?」
応募者
「はい、『トレーニング期間中は時給○○○円』と書いてあるのを読みました」
面接者
「そうですね。トレーニング期間は、基本的に1ヶ月です。ただ最初の1ヶ月間に無断欠勤をしたり遅刻が多かったり、もう少し業務を習得してもらうための期間が必要だと判断した場合は、1ヶ月以上の人もいます」
応募者
「一番長い人でどのくらいですか?」
面接者
「これまでの例では、3ヶ月が最長です。ですが、がんばってしっかりと仕事を覚えてもらえば、そこまでかからなくても通常の時給に戻れますよ」
応募者
「分かりました」
面接者
「ところで、新人アルバイトの多くが苦労するのはどのようなことだと思いますか?」
応募者
「苦労するところですか…(沈黙)、仕事を覚えることと人間関係ですか?」
面接者
「人間関係というと、誰との関係をイメージしますか?」
応募者
「店長や先輩アルバイトとの関係が心配です」
面接者
「どのような点が心配なのですか?」
応募者
「仕事をきちんと教えてもらえるのかなとか、店長や他のアルバイトと気が合うかなとかを考えてしまいます」
面接者
「店長やリーダーはきちんと仕事を教えてくれます。ただ、店長やリーダーも人間です。教わる人がきちんとメモを取ったり、返事をしたり、先輩の業務をよく観察して覚える努力をしたりすることが、よりしっかり教えてもらうためには必要ですね」
応募者
「ああ、そうなんですね」
面接者
「それともうひとつ、店長や他のアルバイトと気が合うかどうかを心配していましたね?」
応募者
「はい、もちろん職場なので自分と合う人ばかりじゃないことは理解しているのですが、うまくやっていけるか不安はあります」
[…面接はつづく]

このように、勤務開始後にギャップを感じると想定される項目の質問を準備し、応募者に応じて確認をすることがポイントです。そして、応募者が楽観的な考えを持っているようであれば、現実をきちんと伝えることも必要です。

上記のような質問を活用した面接は、ギャップを埋めると同時に応募者の仕事に対する価値観や職場における人間関係への適応性などを知る機会になり、長期定着が可能な人材の選別にもつながるのです。

石川和夫 / Kazuo Ishikawa

ARKコンサルティング・オフィス 代表 石川和夫

ARKコンサルティング・オフィス代表。1958年栃木県宇都宮市生まれ。法政大学経済学部卒。株式会社セブン‐イレブン・ジャパンにおいて、OFC(スーパーバイザー)として7年間勤務。のちコンビニエンス・ストア3店とイタリアン・レストラン2店を経営する会社の店長兼統括マネジャーとして12年間勤務。2000年に独立。現在は人材育成コンサルティング、コーチングを活用した管理職者向けのコミュニケーション研修、ビジネスコーチング、執筆、講演を中心に活動する。経済産業大臣認定:中小企業診断士(中小企業診断協会:東京支部中央支会会員)。

著書
『スタッフの“やる気”を引き出す法則(商業界)』『実例に学ぶ店長のための「現場を活かすコーチング」(共著:商業界)』『「聞き方」ひとつで人は育ち・人は動く」(共著:こう書房)』など。

オフィシャルWebサイト
http://www.ark-consulting.com
ブログ「石川和夫の流通業界ウォッチング」毎週日曜日更新中。

スタッフの“やる気”を引き出す法則(商業界)』

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