マニュアル・レシピなしでスタッフ教育 惣菜が全国で評判のスーパー「主婦の店 さいち」

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掲載企業DATA:株式会社佐市

株式会社佐市

本社所在地 : 宮城県仙台市太白区秋保町湯元字薬師27番地
代表取締役 : 佐藤 啓二
設立年月 : 1979年
事業内容 : 食品スーパー

01 惣菜レシピを廃止し、マンツーマンの“口伝え”指導へ

夫婦で全国でも評判になる店を育てた佐藤啓二氏

夫婦で全国でも評判になる店を育てた佐藤啓二氏

 仙台郊外の秋保温泉にある「主婦の店 さいち」は、常時80~100種類の惣菜が販売され、陳列したそばから売れていく人気の食品スーパーだ。なかでも看板商品の「秋保おはぎ」は、1日で平均5,000個、お彼岸などには25,000個を売り上げるという。地元の客はもちろん温泉の観光客も多く、全国からさいちの評判を聞きつけて買い求めにやってくる。
これらの惣菜は毎日、従業員60名のうち45名を占めるパートスタッフたちの手で作られる。その多くは子育てが一段落した60代以上の主婦で、勤続期間が10年以上になるスタッフも珍しくないという。パートは原則週5日勤務。仕込みが始まる深夜から、閉店作業のある翌夜までの三交替制シフトで働いている。
同社は「惣菜作りにレシピを使わない」という徹底したこだわりを貫く。代表取締役・佐藤啓二氏の妻で、専務を務める澄子氏が惣菜の作り方を考案し、“スタッフに口伝えで教える”マンツーマン指導で、日々商品を作り上げるのだ。
「30年ほど前まではレシピを使っていましたが、お客様から惣菜への苦情が相次いだことをきっかけに廃止しました。惣菜を作ったスタッフ本人にクレームが入ったことを伝えても、『私はレシピどおりに作っただけです』と言い訳をしたり、反省せず開き直るケースが見受けられたからです」と啓二氏は語る。
レシピを見ながら作ると、調理スタッフの責任感が薄れ、重みや深みのない味に仕上がってしまうという。そのため、澄子氏が一対一で指導をするスタイルに切り替えた。
「惣菜レシピを廃止してからは、スタッフ一人ひとりに『自分が作った商品なのだ』と責任感が芽生え、苦情が来ると反省して次に生かすようになりました」(啓二氏)

「さいちの味」のすべてを見守り、マンツーマン指導を行う澄子氏

「さいちの味」のすべてを見守り、マンツーマン指導を行う澄子氏

 マンツーマン指導では、まずひとつのメニューの作り方を徹底的に教え、慣れてきたら商品として販売する。この時、調理スタッフ自身が陳列までを担当する。作り続けるうちに味が変わってきてしまうこともあるため、その都度専務がチェックを行う。ひとつの惣菜の作り方を完璧に理解するまでには、1週間から10日ほどを要するそうだ。
また、現場を支えるパートスタッフの大半が主婦であるがゆえの苦労もある。主婦歴の長いスタッフは自己流の調理法に慣れており、他者の意見を聞き入れる柔軟性がなく、指導に反発することもある。初めて指導を受けたスタッフに「さいちの味」を理解してもらうまで、半年ほどかかったケースも少なくないという。

 02 「何のために働くのか」をスタッフに理解してもらう

同社ではこのような「お金に見合う商品を提供する」というモットーから、試食販売を一切行わない。試食では、「無料で食べた」という意識が生まれ、顧客の本音を引き出せず、品質向上につながるフィードバックが得られなくなってしまうからだ。スタッフ教育においても、まず「常に対価に見合う品質を追求する」「顧客の要望に向き合う」という方針を理解してもらうことから始めているという。
顧客満足を第一に考えた惣菜作りの“姿勢”を理解してもらうことは、スタッフ自身のモチベーションアップにもつながっていく。

調理場からも売り場の様子がわかるようにモニターを設置

調理場からも売り場の様子がわかるようにモニターを設置

 「お客様に褒められると、自分が認めてもらえたことで喜びを感じられ、働くことがもっと楽しくなります。するとモチベーションがさらに上がって、よりよい仕事が生まれます。そのためにも、私は『お客様の楽しい笑顔を想像して作ってね』と呼びかけています」(澄子氏)
顧客満足が、スタッフの働く喜びにつながる。惣菜を作ったスタッフが売り場に出て商品陳列まで行うのは、顧客と直接コミュニケーションをとることで、「おいしかった」「ちょっと味が薄かった」など、商品の感想や要望を聞く貴重な機会を得られるためだ。
その他にも同社では、スタッフがより活気を持って働くための工夫として、惣菜を作る調理場にモニターを設置している。調理中のスタッフが、店内の混雑具合などをチェックして臨機応変に対応できるほか、惣菜を買いに来てくれる顧客や、にぎわう売り場の存在を常に意識しながら働けるようにするのが狙いだ。

03 向上心を高める褒め方のコツ

ロス率が驚くほど低い惣菜。看板商品の「秋保おはぎ」は、この日も一部売り切れていた

ロス率が驚くほど低い惣菜。看板商品の「秋保おはぎ」は、この日も一部売り切れていた。

澄子氏は、すべてのスタッフと毎日マンツーマン指導の時間を設けている。たとえ惣菜の作り方をマスターしているスタッフでも、その日の気分やコンディションによって、味が変わることがあるそうだ。澄子氏はその違いを、できあがった惣菜の香りや色味で判別できるというから驚きだ。

作った本人の心のありようがそのまま料理の出来ばえに表れるため、常に前向きな気持ちでいることがよい仕事を生むとスタッフに言い聞かせている。また、おいしい惣菜作りのためには、スタッフの褒め方にもコツがあるという。

「スタッフのよいところを見つけて褒めるのは不可欠ですが、その際“褒め過ぎないこと”がポイントです。100%手放しで褒めると、人はそこで満足して成長をやめてしまう。そこで、点数でいうと80点の褒め方をして『次からはこうしてみてね』と課題を与えることで、残りの20点分また腕を上げて向上することができるのです」(澄子氏)

また「時間をかけてマスターした惣菜の作り方は、自分だけのものにしておきたい」と、他のスタッフにノウハウを教えることを嫌がるスタッフもいるという。そのような場合は、別の惣菜の作り方を教え、新たな仕事を与えることでモチベーションを上げていく。こうした澄子氏の鋭い観察眼と細やかな指導が、パートスタッフたちが活力とやる気をもって働く環境づくりの基盤となっているようだ。

04 同業他社への研修は「学びの場」に

現在は休止しているものの、同社は、大手スーパーなど同業他社からの視察や研修を無料で受け入れていることでも知られている。その際は澄子氏が対応し、研修生に惣菜の作り方をレクチャーする。同社のパートスタッフも一緒に関わるため、改めて業務について学ぶ機会が得られるという。

「研修生にいろいろ質問されることで、パートスタッフだけではなく、私たち経営陣も勉強させていただいていると考えています。まずは自分たちが学ぶ姿勢を忘れないことが、スタッフたちの成長をも促していくのではないでしょうか」(啓二氏)

合理化や効率化が求められやすいスーパーマーケット業界で、パートスタッフと一対一で関わり、根気よく指導を行うさいちの独自の教育スタイル。パートスタッフの定着率の高さが「自身の幸せのために働く」心のあり方を真摯に伝え続ける、啓二氏と澄子氏への共感を物語っている。

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