バイトテロ、ネット炎上を未然に防ぐ―― 今、求められるネットリテラシー教育とは

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スタッフがSNS上に悪ふざけをしている写真を投稿したり、顧客情報などを流出させたりして、ネット上での批判が相次ぎ炎上する「バイトテロ」は、企業に大きなダメージを与えます。若手のアルバイトスタッフたちは、幼い頃からネットに慣れ親しんでいるはず。それにもかかわらず、このようなトラブルを起こすのは一体なぜでしょうか? 今回は、人事コンサルタントの増沢隆太さんに、アルバイトスタッフへのネットリテラシー教育をはじめ、バイトテロを防ぐポイントを伺いました。

バイトテロのハードルは下がる一方

バイトテロはいつでも起こり得る危険性がありますバイトテロはいつでも起こり得る危険性があります

スタッフが投稿した悪ふざけや内部情報の暴露などがSNSから広がって批判が殺到し、炎上する……。このような「バイトテロ」は2013年ごろに続発し、メディアでも騒がれたのはみなさんの記憶にも新しいでしょう。コンビニや外食チェーンでは当該店舗の営業停止、閉店に追い込まれる事態にまでなりました。多額の設備投資をした店舗の閉店は、企業にとっては大きなダメージになります。

現在、報道は比較的少なくなっていますが、バイトテロは今すぐにでも起こせる、実に簡単な行為です。むしろ、そのハードルはSNSの簡略化が進むにつれて、年々低くなっていると言っていいでしょう。それなりの量の文章を綴らなければならなかったブログから、140文字投稿のTwitterや画像と短文のFacebook、さらには画像主体のInstagramと、ネット投稿は日々簡単さを増しています。

また、バイトテロは悪ふざけ写真の投稿だけにとどまりません。接客の現場で見聞きしたお客さんの情報をネット上でつぶやいてしまったり、画像をアップしてしまったりするケースも後を絶ちません。

もし炎上すれば、当事者であるスタッフは本名や住所、家族といった個人情報がネット上に晒されることもあります。学生なら退学、会社員であれば損害賠償請求という事態にもつながるでしょう。バイトテロをきっかけに、ソーシャルメディアが「馬鹿発見機」と揶揄されたこともあります。

悪ふざけをしている写真を投稿したり、お客さんの情報をつぶやいたりするスタッフは自業自得なので放っておけばよい、という意見もあるでしょう。ただ、矛先は企業、当該店舗にも向いてきます。カスタマーサービスがパンクするほど電話がかかってきたり、コンピューターウイルスを送りつけられたりと、事態の収拾には膨大な時間と労力を費やすことになるのです。

接客をサービスとする企業で働くスタッフは、「うかつな投稿が取り返しのつかない事態になる」ことを知っておかなければなりません。正社員もバイトも、同じようにリスク管理、教育をしていく必要があるのです。

若者ほどITに詳しい――これってホント?

若者がネットに精通しているというのは大きな間違いです若者がネットに精通しているというのは大きな間違いです

バイトテロを巡る論議において、「若者の方がネットに詳しいはずだから、うまく使いこなせるはず」と考える年配の管理者、店長も少なくありません。確かに、大学生の中にも、中高年と比べて「自分たちの方が恵まれたIT環境で育ってきた」と誇る若者もいます。しかし、その決めつけに私は危険を感じるのです。

私はキャリアカウンセラーや大学教員という仕事を通じて、私は10代の学生から60代の経営者層まで何千人も、幅広い年代とカウンセリングなどを通して接してきました。その実感として、最もネットリテラシーが高いのは40代以上~50代ぐらいの中高年です。彼らは極めて貧弱だった日本のインターネット草創期の苦労を経験した世代なのです。

一方、今の若者はネットリテラシーが低い。生まれた頃からパソコンや携帯電話で、あらかじめ用意されたネットサービスへ簡単にアクセスできる環境が整っていました。「SNSへの書き込みが不特定多数に見られている」という意識がなく、危機感もありません。

ネットの仕組みを身体でわかっているわけでもなければ、怖さも知らない。全体的に見たら、ITスキル、リテラシーは年代が若くなるにつれ、低下する一方だと思います。そんな若者が多いからこそ、バカな行為を平然とする者が出てくるのです。

もちろんITリテラシーがまったくない店長も問題です。「若者の方がネットに詳しい」という誤った認識を持っていると、バイトテロの被害をさらに拡大させかねません。店長クラスには、「インターネットとは世界に開かれたものであり、SNSを使う際は十分に気をつけるべき」と、若者スタッフに啓蒙していくことが求められます。バイトテロを防ぐため、店長自身がネットリテラシーを高めていきましょう。

そのためには、スタッフが使っているSNSを知らずして店長が教育はできないでしょう。ひいてはバイトテロ対策も難しい。「苦手だから」「触ったことがないから」と敬遠してばかりではいけません。

プログラミングやネットワーク技術などの専門的な知識までは求められてはいませんし、店長自身がSNSに参加しなくても大丈夫。パソコンやスマートフォンなどでインターネットを閲覧し、代表的なTwitterとFacebook、LINEがどのようなものかを理解していれば十分なのです。

採用のタイミングがバイトテロを防ぐ最大のチャンス

バイトテロが引き起こす深刻な事態を意識させることが重要ですバイトテロが引き起こす深刻な事態を意識させることが重要です。

バイトテロを防ぐための具体的なポイントについてお話ししていきましょう。バイトテロは、いつでも起こり得るもの。スタッフがネットリテラシーを自然に身に着けるまで待っている余裕はありません。

採用時には、できればバイトテロを起こした場合の損害賠償を約束させる誓約書を取り交わすのが望ましいと思います。バイトテロが起きた場合に起こり得る店舗復旧に必要な清掃や消毒、商品の廃棄や交換、休業補償などを、当事者の負担で行うことを明文化しておくのです。

これは、トラブル時の補償というよりも、「スタッフ自身に内容を書かせる」という行為そのものが大切だと私は考えています。厳しい賠償内容があっても、ただサインするだけではスタッフの意識には残りません。自分で文言を書き、意識することで大きな抑止効果が期待できます。

忙しいからといって、誓約書をはじめ資料やマニュアルを「書いておいて」「見ておいて」で済ませていないでしょうか。そのような形骸化した対策では、バイトテロのリスクは回避できません。

さらに安心なのは、スタッフが利用中のSNSも明記してもらい、可能であればアカウントを把握して、サービスの退会や非公開アカウントへの移行を促すこと。ただし、これは強制するとプライバシーの侵害になってしまうので、慎重な対応を心掛けてください。

誓約書と同様に、実際にアカウントを確認することよりも、「企業や店側はあなたがSNSを利用していることをしっかり把握しているよ」という態度を表明することこそ重要なのです。店長は、バイトテロの芽にしっかり目を光らせる姿勢を常に見せていきましょう。

既存スタッフを含めた「ネットリテラシー教育」を継続すべし

SNSには不特定多数の目があることを教えましょうSNSには不特定多数の目があることを教えましょう

無事に採用が決まったら研修時の教育も重要です。この段階で、徹底的に禁止事項を教える必要があります。実際にスタッフを指導する店長たちが「そんなことは常識だから言わなくてもわかるでしょう」と考えている限り、バイトテロを防ぐことはできません。

悪ふざけをして撮影をすることはもちろん、「芸能人が来店した」といった事実すらも、仲間内に話す感覚で投稿させないこと。「情報漏えいを防ぎましょう」と指導したところで、バイトスタッフは「店の大事な情報は何も知らないから、漏らしようがない」と思うでしょう。

具体的に「どんなお客さんが来た」「いくら払った」「誰と来た」といったことを含め、バイト中に見聞きした情報は、どんなに些細なことでも外部に漏らしてはならないと伝えることが重要です。

ネット上はプライバシー空間ではなく、常に他人の目がある「公の場」。一度ネットにアップした情報は不特定多数の人々へ広がっていくリスクをはらんでいることを徹底的に教えるのです。「家が特定された」「内定が取り消された」といった、過去に起きたバイトテロの顛末を挙げるのも有効でしょう。

以上のような対策は継続して行うことが大切です。リスク管理に魔法はない……ひたすら地道に、愚直に続けていくほかはありません。継続するには朝礼の活用がおすすめです。

日々の朝礼の時間で、バイトテロの事例が報道されるたび、朝礼でアナウンスして意識啓発を促す。新規スタッフだけでなく、既存スタッフへの継続的なケアも加えた二段構えの対策が望ましいと思います。個人面談も有効です。

最後に、いろいろな対策を打っていたにもかかわらず、バイトテロが起こってしまったら……? 事後の対処は、経営レベルの判断になるので、現場レベルでできることはあまりないと考えていいでしょう。一度ついてしまったマイナスイメージを払しょくするのは簡単ではありません。抑止に全力を注ぐべきです。

インターネットやSNSがある限り、バイトテロは無視できないリスクとして今後も立ちはだかります。ここで紹介した対策を活用し、朝礼や個人面談でのコミュニケーションチャンスを増やしていければ、一体感のある職場づくりや離職防止にも役立てられるはず。さっそく実践してみましょう。

Mロンドンパートナーズ代表取締役社長 増沢隆太

増沢 隆太 / Ryuta Masuzawa
株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役社長
1962年、東京生まれ。80年代末、CVS創世記の日系流通業に新卒で入社。後に退職して、ロンドン大学大学院に留学。その後、外資系商社やメーカー、人材コンサル企業などで一貫してマーケティング責任者を経て独立。流通企業、サービス企業を顧問先に多く持ち、社員研修やスタッフ個人面談導入による退職率改善などで実績を挙げる。東京工業大学をはじめ、全国の大学でキャリアやコミュニケーションの講義も行う。主な著書に『謝罪の作法』、『戦略思考で鍛えるコミュ力(りょく)』など。

RMロンドンパートナーズ
http://rm-london.com/

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