ユニクロが導入した「地域限定正社員制度」とは

  • 企業採用成功事例

掲載企業DATA:株式会社ユニクロ

商号 株式会社ユニクロ / UNIQLO CO., LTD.
所在地 山口県山口市佐山717-1(本社)東京都千代田区九段北1-13-12 北の丸スクエア(東京本部)
事業内容 商品企画・生産・物流・販売までの自社一貫コントロールにより、高品質・低価格のカジュアルブランド「ユニクロ」を提供する製造小売業(SPA)

01 「地域限定」のキーワードで優秀な人材流出に歯止めをかける

優秀な人材をいかに確保し、長く働いてもらうかは企業にとって重要懸案事項です。ひと昔前は社会全体の景気停滞により、雇用は空前の買い手市場。黙っていても多くの人が雇用を求めて企業の前に列を成していましたから、その中からじっくりと優秀な人材を見つければよかった。しかし、今はそんなことを言っていられる時代ではありません。景気の回復に加え、採用の活発化と多様化などもあって雇用は売り手優位な状況へと変化しています。各企業はあの手この手で人材の確保と流出阻止に取り組んでいるわけですが、今回は業界でも注目を集める新制度を導入したユニクロに話をうかがいました。ユニクロが2007年4月1日から運用を開始したのは「地域限定正社員制度」。店頭で販売業務に携わっている非正社員を、約2年の間になんと5000名も正社員として登用しようという制度です。文字通り地域限定、つまり転居を伴う転勤が無い正社員のことで、待遇その他はほぼ正社員と同じだといいます。この新しい制度の狙いを同社人事部の橋本氏、山下氏は次のように語ります。

株式会社 ユニクロ 人事部 店舗人事チーム山下 重人氏

「当たり前のことですが、優秀な人材をいち早く市場から獲得したい、というのが制度導入の一番の理由です。弊社では今まで正社員、契約社員、準社員、アルバイトという雇用形態がありました。正社員は全国を対象とした転勤を前提とした契約内容でしたので、優秀でありながら、やむを得ず制度上は正社員として雇用できなかった人材がとても多かった。現場の店長クラスからは『優秀な人材がどんどん辞めてしまうのでなんとかしてくれ』という悲鳴にも似た声が常に届いていたんです。そこで辞めていってしまう人たちの意見を集めたところ、やはり『正社員になりたいのになれないから』というのが離職の理由で最多。将来の先行き不安から、たとえ給料が下がっても他社の正社員になる道を選ぶ人が増えてしまっていた。そこで生まれたのが地域限定正社員制度なんです。」

02 現場を支えるスタッフへの投資が企業ビジョンの実現につながる

しかし、企業にとって正社員を多く抱えるというのは優秀な人材を確保できる反面、人件費増加というデメリットも背負うことになります。今回のユニクロの新制度は、経営のスリム化を目指す社会的潮流に逆らうようにも見えます。聞けば、計画通りに地域限定正社員が5000名になれば、人件費負担は5~10%アップすると試算されているそうです。そこまでして新制度導入に踏み切った理由とはなんなのでしょう。

現在変革期にあるというユニクロ。5月には日本最大級の「世田谷千歳台店」がオープン

「たしかに正社員を増やすのは、コスト面では会社に大きなインパクトを与えます。ただ、私どもはこれをコストとは考えず、『投資』と捉えています。弊社は2010年の売上目標を1兆円としておりますが、これに伴い海外進出、国内店舗の増加・大型化などドラスティックな変革期にあります。ファッション性を高めて販売、接客、サービスを強化していかなければならない状況なのです。この企業ビジョンを具体的に誰が叶えてくれるかといえば、それは現場のスタッフ。スタッフが働きやすい環境を提供できなければ企業としての目標、夢、ビジョンも実現できない。ユニクロなんか好きじゃないけどなんとなく働く、というような人たちが店頭に立つと考えるとぞっとしますよ。長く働きたい、ユニクロを自分の力でよくして、自分の生活も向上させたい、という人たちのほうがいいじゃないですか」

03 新制度はあくまでスタート新しい雇用スタイルを創出したい

ユニクロも多くのスタッフを必要とする小売業という性質上、同業他社の例に漏れず、ずっと非正社員を多く雇用して小回りが効く体制を組織していました。「この10年は『地域一番時給』のコンセプトで人材は集められていたんです。同じエリアのどの店よりも時給を高くすることで、多くの人にユニクロを職場として選んでもらえていた。さらに能力に応じて時給が段階的に上がるパートナーシッププランを設けたり、アルバイトの方にもきちんと有給休暇を付与して消化してもらったり、正社員と変わらぬ福利厚生を受けられたりと、手前味噌ですが働きやすい職場環境作りには早くから腐心してきました。それがここ2~3年で状況が変わってきてしまったんですね。企業が少しずつ正社員登用を始めて、今までは来てもらえていたはずの人材層が他社に流れてしまう状況が生まれてきたんです。やはり現場で働く人たち、特に若年層にとっては『正社員』というのは大きな魅力なんですよね」

株式会社 ユニクロ 人事部 店舗人事チーム橋本 真一氏

 こうして始まった地域限定正社員制度。まだ運用開始から日が浅いのですが、山下さんはどんな手ごたえを得ているのでしょうか。「今回の地域限定正社員制度の導入が抜本的な人材確保の問題解決になっているとは思いません。特に都市部では『ユニクロの正社員』というカードが決定的な魅力にはなり得ない。プラスアルファの施策を考えていかなければならないでしょうね。キーワードは多様性だと思います。正社員だけでなくライフスタイルに合った雇用形態を創出し、提供できるか。派遣で働きたい、正社員になりたい、アルバイトが自分には合っている。ニーズは本当に人それぞれですから、選択できるカードを増やしてあげるのが重要なのではないでしょうか。今回の地域限定正社員も枠を5000名用意したのに手を上げたのは1600名だけですからね。これで長期雇用が実現できたなんて考えると痛い目に遭うと実感しています。これはあくまでもスタートですよ」
最後に山下さんは長期スパンでの雇用スタイルの変化について、示唆に富んだ意見を寄せてくれました。「10年先は正社員とか非正社員なんて言葉自体がなくなるかもしれませんね。雇用契約期間があまり意味を持たない社会になるかもしれない。ライフスタイルに合わせた働き方と、成果に対して相応の対価をしっかり払ってあげるという仕組みを作ったほうが、企業と働く側双方にメリットが生まれるような気がします」

おすすめの記事